【経営コラム】経営者は「無駄な努力」をしてはいけません

…経営とは、「どれだけ苦労したか」を競うものではありません。

中小企業経営者に本当に必要なのは、「努力の量」ではなく、「正しい方向への努力」です。どれほど懸命に頑張っても、方向を間違えれば成果には結びつきません。むしろ、会社や社員を疲弊させてしまうことさえあります。

例えば、「月へ行きたい」と考えた人がいるとします。その人が毎日、誰よりも速く歩き続けたとしても、月には絶対に到達できません。汗を流し、必死に努力し、本人は真剣です。しかし、その方法自体が間違っているからです。月へ行くために必要なのは、「もっと速く歩くこと」ではありません。必要なのは、ロケットという“手段の転換”です。

経営もまったく同じです。
業績が悪化すると、多くの経営者は「もっと頑張ろう」と考えます。営業件数を増やす。会議を増やす。残業を増やす。広告を増やす。行動量を増やせば結果が出ると思い込んでしまうのです。しかし、本当に重要なのは、「その努力が成果につながる構造になっているか」を冷静に見極めることです。

例えば、人口が減少している地域で来店型ビジネスを続けているにもかかわらず、「もっとチラシを配ろう」「営業時間を延ばそう」と考えるケースがあります。しかし、商圏人口そのものが減っているのであれば、従来型の集客には限界があります。その場合に必要なのは、気合や根性ではありません。通販への転換、高付加価値化、ターゲット層の見直しなど、“戦い方そのもの”を変えることです。

これは、穴の空いたバケツに一生懸命水を注ぎ続けるようなものです。本来やるべきことは、水を注ぐ努力ではなく、まず穴を塞ぐことなのです。

また、中小企業では、経営者が「全部自分でやる」状態に陥りがちです。営業も、採用も、経理も、現場対応も、自分が一番早いからと抱え込んでしまいます。確かに創業初期は、それでも成り立つかもしれません。しかし、会社が成長する段階では、「自分が頑張る経営」には限界があります。

例えるなら、小さな船をオールで必死に漕いでいる状態です。経営者自身は疲労困憊になりますが、会社はなかなか前に進みません。本当に必要なのは、「もっと力強く漕ぐこと」ではなく、エンジンを積むことです。つまり、人材育成、仕組み化、業務標準化、自動化など、「経営者がいなくても回る状態」を作ることが重要なのです。

さらに危険なのは、「昔うまくいった方法」に執着することです。かつては、飛び込み営業で成功した。FAX営業で売上を伸ばした。紹介だけで仕事が増えた。だから今も同じ方法を続ける。しかし、市場環境は大きく変化しています。スマートフォン一つで価格比較され、SNSで評判が広がる時代です。過去の成功体験だけでは通用しなくなっています。

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昔の成功は、時として現在の失敗要因になります。これは、古い地図を信じたまま、新しい街を歩いているようなものです。本人は真剣でも、目的地にはたどり着けません。経営者に必要なのは、「頑張ること」そのものではなく、「どこに力を集中させるか」を見極めることです。

そのためには、まず「目的」を明確にしなければなりません。
・売上を増やしたいのか。
・利益率を改善したいのか。
・人手不足を解消したいのか。
・労働時間を減らしたいのか。

目的が曖昧なままでは、努力の方向も定まりません。社員もそれぞれ違う方向へ動き始めてしまいます。

次に重要なのは、「やらないこと」を決めることです。中小企業には、大企業ほどの資金力も人材力もありません。だからこそ、「選択と集中」が必要です。利益の出ない仕事、効果の薄い広告、無理な安値受注、惰性で続けている業務。それらを見直し、時には捨てる勇気を持たなければなりません。成功している会社ほど、「何をやるか」より、「何をやらないか」が明確です。

そして最後に必要なのは、「感情ではなく現実を見ること」です。経営者は孤独です。そのため、「まだ頑張れば何とかなる」と精神論に頼りたくなる場面があります。

しかし、売れない商品は変えなければなりません。赤字事業は撤退が必要な場合もあります。市場に合わなくなったやり方は、勇気を持って修正する必要があります。

経営とは、「どれだけ苦労したか」を競うものではありません。限られた資源を、最も成果の出る場所へ集中させることです。早歩きで月へ行こうとしてはいけません。必要なのは、もっと速く歩くことではなく、「月へ行ける方法」を考えることです。

中小企業経営者に求められるのは、根性論ではありません。成果につながる構造を見抜き、正しい方向へ会社を導く冷静な判断力なのです。