…給与・休日だけでは勝てない!「選ばれる会社」をつくるのは社長の仕事!
「大企業のような給与は払えない」「年間休日も簡単には増やせない」「知名度がないから、求人を出しても応募が来ない」人材採用に悩む中小企業経営者から、よく聞く言葉です。
確かに、給与水準や福利厚生、知名度などで大企業と正面から競争するのは容易ではありません。しかし、だからといって中小企業も採用を諦めるわけにはいきません。大企業より条件が劣っても、選ばれる会社になる方法はあるはずだからです。
■「採れる会社」と「辞めない会社」はつながっている
第1回では、求人を出しても人が来ない原因を、人手不足だけに求めてはいけないとお伝えしました。第2回では、採用人数を増やす前に、防げる退職を減らすことの重要性を考えました。この二つには共通点があります。それは、「この会社で働きたい」「この会社で働き続けたい」と思ってもらえるかどうかです。
採用活動で会社の魅力を伝えても、入社後の実態が違えば社員は失望します。反対に、社員が生き生きと働き、会社に誇りを持っていれば、その姿は求職者にも伝わります。つまり、採用と定着を別々の施策として考えるのではなく、一つの経営戦略として考える必要があるのです。
■中小企業には、中小企業の強みがある
中小企業には、大企業にはない魅力があります。社長との距離が近い。意思決定が速い。若いうちから仕事を任せてもらえる。自分の提案が会社の改善につながる。転勤が少なく、地域に根差して働ける。もちろん、すべての中小企業に当てはまるわけではありません。しかし、こうした強みを持ちながら、それを採用活動で十分に伝えていない会社は少なくありません。
「うちには特別な魅力などない」社長自身がそう思い込んでいないでしょうか。重要なのは、会社の規模や知名度ではありません。「わが社で働くと、社員にはどんな価値があるのか」これを具体的に説明できることです。
■「働く価値」を六つの視点で考える
では、何を見直せばよいのでしょうか。次の六つの視点から考えることをおすすめします。
① 給与・待遇
生活を支える給与、休日、福利厚生が、地域や業界の水準と比べて大きく見劣りしていないか。
② 仕事のやりがい
社員は、自分の仕事が誰の役に立ち、どんな成果につながっているかを理解しているか。
③ 成長の機会
仕事を覚え、能力を高め、将来の役割を広げられる環境があるか。
④ 人間関係
上司や同僚に相談でき、互いに尊重し合える職場になっているか。
⑤ 働き方
勤務時間や休暇の取りやすさなど、社員が安心して働き続けられる環境があるか。
⑥ 会社の目的・将来像
社長が、会社の存在意義や今後の方向性を社員に伝えているか。
この六つをすべて一度に改善する必要はありません。大切なのは、自社の強みと弱みを把握し、優先順位を決めることです。
■社長が最初に取り組むべき三つのこと
まず一つ目は、社員の声を聞くことです。なぜ入社したのか。何に満足しているのか。何に不満を感じているのか。これからも働き続けたいと思う理由は何か。社長の想像と社員の本音が一致しているとは限りません。
二つ目は、自社の魅力を言葉にすることです。「アットホームな会社」では伝わりません。例えば「入社2年目から顧客を担当できる」「社長に改善提案を直接伝えられる」など、実態に即した具体的な言葉にすることです。
三つ目は、採用時の約束を入社後も守ることです。求人票や面接で伝えた仕事内容、待遇、教育体制が実際と違えば、信頼は失われます。採用で伝える魅力と、入社後に社員が経験する現実を一致させることが重要です。
■人手不足時代に問われるのは「経営の質」である
これからの中小企業経営では、人材を単に「採用できればよい」と考えるだけでは不十分です。採用した社員が成長し、能力を発揮し、長く働く。その結果として生産性が高まり、会社の業績も向上する。そして、その成果を給与や働く環境の改善に還元する。この好循環をつくることこそ、人材戦略の本来の目的です。そのためには、給与制度、評価制度、教育、職場環境、管理職の育成などを、経営課題として見直さなければなりません。
人手不足を嘆くだけでは、人は集まりません。採用担当者だけに任せても、会社は変わりません。
最後に、社長に一つ質問します。「もし自分が求職者だったら、いまの自社に入社したいと思いますか?」そして、もう一つ。「もし自分が社員だったら、この会社でこれからも働き続けたいと思いますか?」この二つの問いに、自信を持って「はい」と答えられる会社を目指すことです。人手不足時代に強い会社とは、単に人を採れる会社ではありません。人が集まり、育ち、辞めずに力を発揮できる会社です。それをつくるのは、人事担当者ではなく、社長の仕事なのです。