…黒字なのにお金が残らない理由を解説します。
先日、在庫型ビジネスの経営者の方から、利益が出ているのに資金繰りが苦しいという相談を受けました。実はこの悩みは多くの企業に共通しており、理由を一言でまとめると、利益がそのまま在庫に置き換わってしまうという構造にあります。
企業が本当に儲かったと判断できるのは、最終的にキャッシュが残ったときです。損益計算書で利益が出ていても、売掛金や在庫が増えると資金は手元に戻りません。特に在庫ビジネスでは、売上が伸びるほど在庫の量も比例して増えていくため、利益が在庫の購入に吸収される流れが続きます。
在庫型ビジネスの特徴は、売れる量が増えるほど必要な在庫も増える点にあります。仕入や製造のために先にお金が出ていき、商品が売れてようやく回収できます。しかし、成長を続ける企業ほど仕入も増え続けるため、利益が増えた分だけ在庫が膨らみ、手元資金は一向に増えません。
極端に言えば、会社が右肩上がりで成長し続ける限り、在庫に囚われたキャッシュは返ってこないという状態になります。本当にキャッシュを回収できるのは、売上が横ばいになったときか、在庫が減ったとき、または在庫回転率が改善したときです。つまり、成長ではなく効率化や停滞の局面で初めてお金が戻ってきます。
この構造は在庫ビジネスに特有のもので、黒字倒産が多い理由もここにあります。売上が増えれば利益も増えるため経営が順調に見えますが、実際には同時に在庫が増え続け、キャッシュ不足が慢性化します。銀行から見ると、在庫が過大な企業は資金繰りリスクが高いと判断されがちです。
ではどうすればよいのか。最も効果が大きいのは在庫回転率の改善です。同じ売上でも、在庫が少なければ少ないほどキャッシュは早く戻ります。また、粗利益率を高めることで、在庫に吸収される資金の圧力を緩和することも有効です。さらに、売上拡大のスピードと在庫増加のバランスを管理することも重要です。
在庫ビジネスでは、利益よりも資金繰りの管理が重視されます。売れれば売れるほど資金が減るという逆説的な構造を理解し、自社の在庫の持ち方を見直すことが、健全な経営の第一歩です。黒字だけを見て安心するのではなく、キャッシュがどの段階で手元に戻るのかを意識した経営判断が求められます。
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